『EP1(ゆめみたい)』前説:中野成樹+長島確トーク(5/6)

(撮影:鈴木竜一朗)

■再び、ベートーヴェン(そして個人商店)

中野:今回ナカフラは、会場が小さいからだけど、おかげさまで9月公演はチケットがすぐ売れまして。でね、枚数限定のアンダー25より先に一般が売り切れました。

長島:はい。

中野:若い人じゃなく、そこそこお年を召された方に愛されてるんだなあって、あらためて(笑)。で、この話がどこにつながるのか分からないけど、昔、長島さんとよく言っていた個人商店の話。ナカフラはやっぱり個人商店にどんどんなっていって。それはつまり、自分たちが了解できるものを、生きるに困らない稼ぎの分だけつくって、ご近所さん相手に売るっていう。それで今回は、今後、最低限20年は店たたみませんっていう宣言みたいなものなのかなとか。内向きすぎかな……?

長島:いや、劇団の公演というのは、どんな形であれ、どのみち社会的なアクションなんだと思います。社会的というかパブリックなアクションであって、それは政治的なアピールという意味ではなく、変な言い方ですが公共事業みたいなところがある。さっきのベートーヴェンの話に戻りますが……。

中野:え、また……。

長島:いや、今日はベートーヴェンの話をしたいわけじゃないんですが、考えさせられることがいっぱいあるので(笑)。一つは、19世紀頭にあれだけの交響曲がつくられたのはなぜかというと、交響曲に関しては、つくるほうもやるほうも、聴くほうもコスパが悪すぎて、当時から歓迎とは言えなかったみたいです。総譜を書くのも大変だし、聴くのも大変でコスパが悪すぎてやってられない。なのに、なぜつくったかというと、当時、フランス革命後の社会のメタファーにそれがなっていたからだというんです。つまり、全く違ういろいろな種類の楽器の人たちが集まって一つの大きなものを築き上げるということ自体が、来るべき、あるいはすでに到来しつつあった市民社会のメタファーであって、それを実現して見せるということに立ち会う、行事のような意味で非常に意義があった。その聴き方は、今のわれわれにはもう分からなくなっていると思います。今、演奏会に交響曲を聴きに行って、そういうふうに聴いている人がいるとは思えない。では、今そういう聴き方は全くないのか。企業メセナ協議会にいらした加藤種男さんが、数年前に出された本(『芸術文化の投資効果』)の中で交響曲のことを書かれていて、90年代ぐらいからのある時期、企業が芸術の支援をするときに、オーケストラを支援するのがすごく流行りましたと。それはなぜかというと、彼ら(企業の人々)に分かりやすかったからだという。つまり、いろいろな部署があって、いろいろな担当者がいて、みんなで力を合わせて大きなハーモニーをつくり、場合によってソロみたいなものがあって、それでうねりを持った一つの大きなものをつくるというのは、大企業がやっているプロジェクトや事業のメタファーとしてとても分かりやすかった。19世紀のヨーロッパの市民社会のメタファーとして聴かれていたものが、2世紀近く経って日本の企業のメタファーとして響くようになって、それを受け取った人たちが応援した。それに比べると、今、プロジェクトでも演劇、劇団でも、果たしてわれわれは、そういうふうに誰かに伝わるものをやっているだろうかと。あるいは、そういうふうに語られる語り方をわれわれは持っているだろうかと思いました。

ベートーヴェンには、交響曲という大きなものがある一方で弦楽四重奏曲もあって、新曲が出ると貴族たちが喜んで自分たちで弾く。ベートーヴェンのスポンサーである貴族たちは、同時に弟子になってもいる。音楽の先生としてベートーヴェンに莫大な謝礼を払うという形でスポンサードをしながら、弦楽四重奏曲の新曲を、自分たちでも演奏するのを楽しみに待っていた。それは交響曲とは違うカテゴリーのものであって。自分たちで「やる」楽しみのための、バンドスコアみたいなものですかね。作曲家の側からすると、人々が仲間内で演奏する楽しみのための新曲を提供するという仕事がある一方で、社会のメタファーや、あるいは世界を表現するみたいなスケールの大きい創作があった。その二系統はかなり違う感じがします。

中野:同じ音楽だし、同じ作曲家だけれども、社会的な立ち振る舞いのアクションが全然違う機能を持ってる、みたいな?

長島:そうです。

中野:実は、今回はコロナで出来なかったけど、仕込みとばらしもお客さんにやってもらうという企画がありました。何にもないスタジオを劇場に仕立てていって、上演を見て、また何もない状態にしてから帰るというようなことを一緒に体験したいなって。出来なかったけど……。

長島:20年あれば、いつかはできるんじゃ?

中野:あ、でも20年あれば、最悪15年目ぐらいには、お客さまが演出もやってくれて、さらには会場取りも予算管理もして、というような……。

長島:出演もして。

中野:全部、やってくれるんだ(笑)。あ、でもそれは、長島さんがさっき言ったモダニズムの特性の細い暗い道に……。でも、細い暗い道って楽しいんですよね。これが罠なんでしょうけど。

長島:狙うとそっちに行きますね。

一般社団法人なかふら/中野成樹+フランケンズ

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