■『ハムレット』を、20年で
中野：今回の『EP1（ゆめみたい）』は、シェイクスピアの『ハムレット』を、ゆっくりと20年かけて最初から最後までたどっていこうという企画です。もちろんナカフラなので好き勝手にアレンジしながらですけどね（笑）。去年『Part of it all』という作品をやって、今回も基本的には同じ発想でやっています。それはつまり、メンバー各自の日々の生活――それは子育てだったり、芸能活動だったり、病気療養だったりといったものと、劇団としての表現活動の両方を、できる範囲で折り合いをつけながら両立するということをやってる。結果から言うと、今回もまた舞台に子どもが出ます。また、仕事や自身の都合で欠席するメンバーもいる。それで、さっきの話でいうと、気を抜くと子どもたちを表現のちょうどいい素材だと思ってしまう瞬間があって。あるシーンでは、出演メンバー足りないし、じゃあ子ども出しとくか、みんな喜ぶだろうし、とか思ってしまって。でも子どもはそういう目論みを簡単に打ち消しちゃう。思ったとおりにセリフを言わなかったり、そもそも出てくれなかったりして。すると、「いいから！ やれよ！」なんて思って……。でもそこでイラつくのは、表現者としても最悪だし、親としても最悪かなって。今回、9月公演は子どもが出るパターンで、10月、11月は子どもが出ない回もつくってみたいなって思っていて。
長島：なるほど。
中野：別に子どもがいなくても、今やろうとしていることの表現の強度は変わらないってことを、きちんと自分たちで確認しておかなくちゃダメだろうなって。去年に続いて今回は2回目だから、子どもを出しておくとウケるだろうという計算も当然働き始めているし、でもそれじゃ芝居つくる意味ないし。自分にとっては、子どもと一緒に演劇ができるのは大切だけれど、でも今年は子どもなしで何ができるのか、子どもに勝たなくちゃという課題がおもしろくなり始めてる。
中野：あと、すごくいいなと思ったのは、今回、（メンバーの）北川麗が出ないと言っていて、その判断が素敵だなって。一応、「稽古なしでも、本番だけ来て、無言の役とかあるから」って言ったら、「私にとっては本番があると考えることで生活が規定されてしまうから、本番があるということを一回パスしたい。セリフの大小ではないんです」というようなことを言ってて、「ああ、わかるわ」って返事して。
長島：いいですね。
中野：稽古時間は以前の1/3以下なんだけど、でも演劇の本番は本番だよなって。20年かけてやっていくって宣言しちゃったし、どこかでまた全員そろう時も来るだろうと。来るよね……？
長島：来ると思います。
中野：20年後、長島さんは何歳ですか？
長島：72、3かな。
中野：そっか、俺が69とか70だもんね。
長島：やばいですね。
中野：生きてますか？
長島：いや、危ないと思うんですよ。60ぐらいで危ないと思ってます。
中野：あとわずかだ……！
長島：そうなんです。60ぐらいでピンチが来るのではないかと思っていて。その一方で、幼なじみの友達とは120まで生きるという約束もしていて、倍だ。
中野：120だと、この『ハムレット』が完結して、あと50年ありますよ。
長島：そう、やばい。
中野：あ、20年って意外と短いかもしれないね。だって、20年前というと2000年代で、2002年とかですもんね。
長島：そう考えると、ついこの間ですね。
中野：それで、このシリーズはLPじゃなくて、EPの連作で行こうと思ってて。
長島：はい。
中野：LPアルバムに比べると軽めのものを、EPを少しずつリリースしていきたいなって。あとは、EPのExtended Playingって言葉が、なんか色々な意味を同時に持ってきてくれるかな、とかね。
長島：なるほど。
中野：どのみち連作という形式に意識がいきました。例えば、漫画は週刊連載とか月刊連載が普通じゃないですか。逆に、最初から最後まで書き下ろしでやるというのはかなり異質で。どうして演劇は1回で最初から最後までやるんですかね？
長島：取っておけないからじゃないですかね。コミックで第2巻が出たとき、もう第1巻が手に入らない、みたいな感じで。
中野：確かに。今回はスタートなので平気ですが、例えば次回以降「前回を見ていないのですが楽しめますか？」ということが出てくると思うんです。それは映画のシリーズものでもよくあるじゃないですか。当然、作り手側は「2からでも十分楽しめます」と言うけれども絶対そんなことは嘘で、1を見ているほうがいいに決まっている。でも、『ハムレット』に関しては、原作を知っていればどうにかなるんじゃないのか？ とかね。
