二つの仕事を一度に持つこと

−いろいろありましたか。

中野:ありましたね。野島は一度、辞めようとしてたもんね

野島:うんうん

中野:野島はフランケンズの初代リーダーなんですよ。リーダーっていっても、何やるかといえば、基本的に打ち上げの乾杯の音頭とかなんですけど、メンバーの心の拠り所になっていた。その、野島が結成から何年か経って、やっぱり普通に仕事もしなきゃいけないから、医療事務だっけ?

野島:そうそう

中野:医療事務の資格を取るから、下の世代も入ってきたし、ちょっと一歩引くみたいな、退団をするみたいな話を、したよね。みんな時間の自由がきくバイトをしてたけど、事務で病院に勤めるとそういうわけにいかなくなるし、劇団を辞めなきゃダメだと思うんだよみたいな話を、新百合ヶ丘で「忠臣蔵」(2009年『忠臣蔵(と)のこと』)の打ち上げの時だったと思うんだけど、居酒屋のトイレの前でしてて、で野島が泣きだして

野島:あー、そうそう

中野:その時の舞監は、ロロとかでやってた鳥養さんだったな。彼女がそこに来て「あっ!」みたいになって、野島が「別れ話じゃないからね! わたしたちそういうんじゃないからねっ!」って怒ったというね。

野島:あはははは

中野:石橋は大学から野島とは同期で、ずっと一緒にやっていたんだけど、彼女は「出れるならあちこちの劇団にも出たいし」「行けるなら世界ツアーにも行きたいし」って、野島とは対照的に演劇活動に集中するタイプ。それはどっちがいいとかいう話ではなくて、野島もそういう気持ちも当然あっただろうけども、仕事もやらなきゃ無理だし、って考えていたんだと思う。そういう野島の存在ってのが、ナカフラの今につながっているんだと思う。

その新百合ヶ丘の「別れ話」のすぐ後、2010年に熊谷(熊谷保宏。上演を目的としないワークショップなどの「応用演劇」の、日本における先駆的研究者。2014年没。享年46)をナカフラに迎えるんだけれど、熊谷が加入する前から僕も応用演劇みたいな方にも意識が向いていて、「芸術家」みたいな立ち居振る舞いに対してどっか疑問を持ってたような気がする。だから、野島が働きたいって言ったときに、「そりゃ、そうだよな」と思ったのかもしれない。

(ピンポーン)

中野:あ、ちょっと迎えに行ってきます。

野島:もう凄い前の話ですけど、今、中野さんの話を聞いていて、そうだったなあと。
やっぱ自分なりにすごく葛藤して、劇団での活動をメインにしてた生活が続けられなくなって。でも周りにそういう生活をしているメンバーがいる中で、何て言うのかな、自分がそうじゃなくなっていく時のさみしさみたいなのもありましたし。
それでも辞めずにいられたこと、中野さんが辞めずにいさせてくれたっていうことでもあるとは思うんですけど。それが途中で子どもを産んで、さらに参加できなくなって、本当にね、稽古とか全然してない中で、今回の公演につながったっていうのは、なんか奇跡的だなと思ってます。

−でも小劇場演劇といわれるところの人たちが、商業演劇とかテレビとか映画で食えるようになるか、ある時期で辞めるか、みたいな二択しかないのか? っていう中で、きっと中野さんはそうじゃない道を今考えてるだと思うんですよね。

(稽古風景)



フランケンズのモロモロ

中野:お待たせしました。

−では、子育てをされてる方がどれくらいいるとか、ナカフラの現状を教えていただけますでしょうか?

中野:ざっとここまでの経緯を話すと、ナカフラが結成したのは2003年ぐらいで、初期のメンバーの村上聡一・福田毅・野島・石橋っていうのが固まったのが翌2004年ぐらい。その後10年間ぐらいはそこに少しずつメンバーが加わって、洪雄大・竹田英司・田中佑弥・斎藤淳子が入って、そのあとに小泉まき ・北川麗、さらに長島確(ドラマトゥルク)と熊谷が入って、鈴鹿通儀が入って、10数人のグループが固まったんですね。

その結成10年ぐらいのころ、村上と石橋と野島が子どもを授かり、3人が子育てに入りました。2017年にはうちにも子どもができて、そうすると妻で制作の水渕歩知も子育てに入り、その後に小泉も出産して、その前後で村上のところに2人目が生まれ、その翌年に斎藤が子を授かり

−凄いな、少子化の時代に

中野:そうそう。おめでたい系列はそんな感じ。一方で、石橋たちが妊娠する少し前、2014年に熊谷が亡くなり、2017年に僕が1回目の鬱で倒れて、2018年にちょっと復活するんだけど、2019年にもう1回鬱になって、鈴鹿通儀が抜けて、先日村上も卒業、というのがめでたくない系列。メンバーの脱退はめでたさとか関係ないし、互いを尊重しての結果だけどね。

結成から10年間は、メンバーも少しずつ増えて、ありがたいことにお仕事も少しずついただいて、活動の幅もどんどん拡げていったんだけれど、2014年ごろからいいことも悪いことも含めていろいろあって活動のペースが緩くならざるをえなくなったんです。



一般社団法人なかふら/中野成樹+フランケンズ

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