▶︎戯曲の冒頭:シーン1「今 半透明」
見張りをしているフランシスコー。
手には、幾つかのカウンターチェッカー。
奥の方に縫い物をしている黒い服の女の姿。
バナードー、登場。
バナードー 「誰?」
フランシスコー「え? (みとめて)ああ。〝国王陛下の家臣!〟」
バナードー 「うん、同じく。」
フランシスコー 「ええ。」
カウンターチェッカーの一つをカチャリと押す。
バナードー「ご苦労さま。では、簡単な報告を美晴からしてもらって、その後に――。」
フランシスコー「 ……ん?」
バナードー「ああ、こちらも一応、合言葉を自ら言わねば、か。(敬礼などし)〝少年チャンプ!〟」
フランシスコー「はい……。時間通りですね、バナードー。」
バナードー「ああ。ちょうど12時。だいぶ寒さも強まって、美晴もそんな格好じゃ――。」
フランシスコー「……ん?」
バナードー「ん?(ってなに?)」
フランシスコー「先ほども、」
バナードー 「なに?」
フランシスコー「美晴?」
バナードー「うん。」
フランシスコー「誰、ですか?」
バナードー「ああ、合言葉を入力しなきゃ、か。(敬礼などし)〝ただ今、絶賛連載中!〟」
フランシスコー「ええ……。」
バナードー「なに(スッキリしない顔してるの)?」
フランシスコー「いや。」
バナードー「どうして? 不審そうな目でこっちを見て?」
フランシスコー「大丈夫です。」
バナードー「……本当? でも、目が…見えてないんじゃない、美晴。」
フランシスコー「美晴?」
バナードー「うん。」
フランシスコー「誰ですか?」
バナードー「パスワード入力、あなたが好きな少年チャンプ連載のタイトルは…? (敬礼などし)〝黒子の王子様〟!」
フランシスコー「ええ……。」
バナードー「なに? スッキリしない顔して。」
フランシスコー「いや。」
バナードー「さっきから、やたらと話のコシを折るじゃない。」
フランシスコー「いえ、」
バナードー 「それで、例の亡霊は?」
フランシスコー「いえ、ネズミ一匹。いや、正確には、野ネズミ3匹、ウサギが2羽、ヘラジカが4頭、野次馬いませんでしたが、住所不定無職は8人でした。
間
フランシスコー「いや、見張り、ですよね、私は。美晴ではなく。」
間
フランシスコー「私がしているのは--見張り。いや、私だけじゃない。」
間
フランシスコー「毎夜にわたる全軍総出の厳しい警戒、大砲の配備、武器の買入れ、軍艦の増強。これと、例の亡霊とはどんな関係が……?」
バナードー「やっぱり見えてないのか……。」
フランシスコー「え? …すいません、キャリアが足りず……。」
バナードー「美晴は…小さい頃おにぎりの梅干しが苦手だったじゃない?」
フランシスコー「なに?」
バナードー「……でも、今は深川飯も食べれるもんね。」
フランシスコー「え?」
バナードー「もちろん、北海海鮮丼には敵わないけどさ。」
フランシスコー「(強い意思を持って)誰?」
バナードー「ああ、合言葉、〝犯人は自分自身でした〟!」
フランシスコー「バナードー?」
バナードー「もちろん、意識はなかったんだけどね。」
フランシスコー「バナードー?」
バナードー「もう一人の自分なんて古臭いだけかと思ったけど、」
フランシスコー「バナードー。」
バナードー「僕はもう、ただ一人の僕じゃないんだ。じゃあ、君は何を見ていたんだ?」
バナードー「目が…見えてる? 僕はもう単純じゃなくて、二重で。」
バナードー「見ないことで、見えないことでしか捉えられない。」
バナードー「急にグッてする。休止ぶってのズル。週一って結構ブルー。」
バナードー「で、美晴は、ウニ、食って、狂う。覚えてる? あんなにはしゃぐなんて、おかしっくて、ずっと思い出し笑いして。」
バナードー「単純じゃなくて、少なくとも二重なんだよ。」
フランシスコー「バナードー? いや、誰……? あ……。」
フランシスコー、ゆっくりうずくまる。
バナードー、カウンターチェッカーを取り上げ、一つ押す。