演劇と生活が折り合うことについて

−新しい世代の責任を取れないって、中野さんがさっき仰ったけども、それまでにいた人たちとの関係はどうなんでしょうか?

中野:少なくとも2017年以降に入った佐々木愛と新藤みなみっていうところに対しては、新藤なんて劇団員になってからまだ一度も公演がないから、その二人に対しては何かね、申し訳ないなってすごく思うんですよね。他のメンバーは劇場で2週間やったりとか国内まわったりとか、村上や石橋はチェルフィッチュの岡田くんのとこでワールドツアーに参加させて貰ったりとか、福田・田中・小泉はシンガポールにいったり、そういうことができてたから。そういったものを佐々木と新藤には味あわせて(ママ)あげられてないので。

でも昔から結構ね、劇団のミーティングでは、僕は演出家だから、つまり僕が岸田戯曲賞とかをとって小劇場的なブレークっていうのはないよ、ってのは話していたんですよね。あまり俺や劇団に期待するなよって。
あと、「演劇で食っていきたい」とか「バイト辞めたい」とかいうのも、じゃあお前ら月いくら欲しいんだと。俺らみたいのはどのくらいのクラスになっても、芝居1本出て30万もらえるなんてほぼねえぞ、と。30万もらえるのだって、ツアーやって、稽古なんかの時間を含めて3か月とか拘束されて30万。それを途切れなく年4本やれたとしても、年収120万しか稼げないじゃないか、って。
じゃあ事務所に入るか? 「声仕事」やるか? 僕も昔、ちょっとそういうのやったりしたこともあって、我々ペーペーがそういう声の仕事でラジオCMとか呼ばれて、それでもCMってすごいね1本で5万くらいもらえたんだけど、それを月3本途切れなくやっていくために事務所の社長とかに「ウェーイ、今度呑みにつれてってくださいよぉ!」「マジっすか! それすごいっすね!!」みたいなの言いつづけていくってのがお前らのやりたいことなのか、と。
もしくは、アイドルの芝居の端役で出て、本当にセリフ二言くらいしかなくて、3か月拘束で80万貰って、それがやりたいことなのか? っていう話をしてたんです。その時の日本のそういう現状を考えた時に、やっぱり演劇だけで食うとか役者だけで食っていくっていうのはほぼ不可能だと思うって。
だから、芝居で食っていくというよりも、お芝居がないとちょっと収入つらいな、ぐらいをまず目指していかないか、と。普通にバイトしてて、でもこないだ出た芝居のギャラが10万入るから今月は楽かも、とか。そういうところをまずは目指してみないか? みたいなことはよく話していたんですよね。
どこか演劇業界のお金の回り方とか信じてなかったし、かと言って芸能界みたいなものも信じてなかったし。
大学の先生として学生たちに演劇を教える立場になっても、そういう夢を追っている学生に、やっぱり演劇で食うのは無理だって言っちゃってた。食っていける人もいるけども、結局それはやっぱり演劇というより半分以上は芸能界でなんだから、そもそも芸能人になれる人は演劇の大学になんか来てないからね、みたいに。もちろん、演劇だけで芝居だけで声だけで食べていっている優れた人がいることは重々理解してるけど、全員がそこを目指すのは苦しいだけだなって。

でもありがたいんだけども、そんな話をした時にも、やっぱり中野が演出する作品が好きだからやってるってメンバーがそれなりにいてくれて。みんながたまに言うんだけど、他の現場とか行くとやっぱり演技ってものに対して興味を持ってる演出家がいかに少ないか思い知る、って。日本って劇作と演出の両方をやる人が多いから、やっぱり作家の方に意識が行っちゃうんだろうけど、僕は作家じゃないから、やっぱり何かおもしろいもんを作ろうとすれば、演技をいじっていくしかないんですよね。だから結果、役者と濃密な対人関係を築いていくことになる。それは創作活動としてもおもしろいし、人生を共に過ごしていく仲間としての側面も出てくる。とにかく、そんなナカフラがいいと言ってくれる人たちがいて、今の状態があるっていうね。

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(ミーティング風景)


 


一般社団法人なかふら/中野成樹+フランケンズ

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