橋を渡る

 岡本綺堂という人は、いろいろなものをまたいだ作家でした。「半七捕物帳」シリーズは、「捕物帳」という、いまではおなじみの時代小説(時代劇)の一ジャンルを拓いた有名な作品ですが、そもそものアイディアはシャーロック・ホームズの江戸版というところにありました。またそれは、いまよりまだ距離が近かったとはいえ、もう過ぎ去ってしまった江戸へ、東京から橋をかけ直すような仕事でもありました。

 今日紹介する「両国の秋」は、「半七捕物帳」の連載開始とほとんど同じころに書かれた小説です。舞台となる両国橋は、ご存じのとおり下総国と武蔵国(いまにたとえると千葉と東京)をまたぐ橋で、江戸時代、東詰には見世物小屋がひしめいていました。そこで働く蛇使いの女と、武家に仕える男との、身分をまたいだやるせない恋の物語です。

 綺堂には、探偵物や怪奇物のほかに、心中物とか情話とか呼ばれる、行き場のない男女の関係を描いた作品がいくつかあります。生と死の間にかかった橋を渡る、けっして偉くも強くもない人たちの姿を描く、その淡々とした筆致には、綺堂特有の、なんともいえないやさしさがあります。

-------------------------------- 橋を渡る 長島 確 2017.9.26

「両国の秋」  岡本綺堂
*全文をのせるには長いので、青空文庫でお読み下さい ▶▶▶

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